「布団に入ってもなかなか眠れない」「寝ても疲れが取れない」と感じることはありませんか。
その悩みの背景には、私たちの脳内で分泌される、メラトニンというホルモンが関わっているかもしれません。
メラトニンは、良質な睡眠に欠かせないホルモンであり、体内時計の調整などにも関わっています。
この記事では、メラトニンの働きや分泌のバランスを整える方法について、詳しく紹介します。
メラトニンとは
メラトニンは、体内時計の調節や睡眠をサポートする役割を持つホルモンです1。
主に、脳の中央にある松果体(しょうかたい)から分泌されます2。
メラトニンは夜になると盛んに分泌され、私たちを自然な眠りに誘います3, 4。
そして起床後に日光を浴びると、体内時計からの指令でメラトニンの分泌が止まり、身体を活動に適した状態に導いてくれます4。
また、メラトニンの分泌は光の影響も受けるため、夜間でも強い光を浴びると、分泌が止まってしまうことがあります3。
そのため、メラトニンが適切に分泌されないと、体内時計の乱れや睡眠の質が低下するおそれがあります3,4。
メラトニン分泌のメカニズム
メラトニンは、必須アミノ酸である「トリプトファン」から作られています2。
また、メラトニンの分泌は、さまざまな要因に影響を受けることがわかっています2。
体内時計とメラトニンの関係
私たち人間は、特に時計を意識しなくても、朝になると目が覚め、夜になると自然に眠くなります5。
これは、体内に備わっている体内時計が、睡眠と覚醒のリズムを調整しているためです。この1日・24時間周期をもつリズムを概日リズム(サーカディアンリズム)といいます5。
朝に光を浴びてからおよそ13時間経つと、体内時計の働きによってメラトニンの分泌が始まり、眠気が出現する仕組みになっています4。
また、体内でメラトニンが作られる過程には「N-アセチルトランスフェラーゼ(NAT)」という酵素が関与しています2。
体内時計の働きが活発な日中は、NATの働きが抑えられるため、メラトニンの分泌は昼間に少なく、夜に多くなるというリズムが生まれるのです2。
光の刺激とメラトニンの分泌の関係
メラトニンの分泌は、体内時計だけでなく「光」からも強い影響を受けます2。
光が目から入ると、その信号は体内時計の調節中枢である視床下部の「視交叉上核(しこうさじょうかく)」に届きます2。
光の刺激を受けた視交叉上核は、メラトニンを作るのに不可欠なNATの働きを抑えるため、メラトニン分泌は大きく低下するのです2。
そのため、夜間であっても強い光を浴びると、メラトニンの分泌が抑えられることになります2。
個人差はありますが、家庭用照明程度の明るさで影響が出るケースもあります2。
特に、白色LEDなどに多く含まれるブルーライトは、体内時計に強く作用し、メラトニンの分泌を抑えやすいことがわかっています6。
加齢とメラトニンの分泌量の変化
メラトニンの分泌量は、加齢にともない減少します7。
夜間に分泌されるメラトニンの量は、1〜3歳頃までが最も多く、思春期を過ぎると年齢とともに減っていくのです7。
個人差はありますが、70歳を超えると、ピーク時の10分の1以下になると言われています7。
食事のメラトニンへの影響
メラトニンを作るトリプトファンは、タンパク質に含まれているため、食事の内容に影響を受ける可能性があります2。
国内の研究によれば、トリプトファンが多く含まれる朝食を摂り、朝から日中にかけて光を浴びると、メラトニンの分泌時間が早まると報告されています8。
メラトニンの主な役割
睡眠との関わりが深いメラトニンですが、免疫機能の調節やアンチエイジングとも関連があるなど、さまざまな役割を持っています。
睡眠の促進と体内時計の調整
睡眠を促す働きは、メラトニンの代表的な役割の一つです。
メラトニンは、身体を覚醒状態から休息状態へ切り替え、スムーズな睡眠をサポートします2,3。
メラトニン自体に睡眠薬のような働きがあるわけではありませんが、体内時計に夜であることを知らせ、睡眠に適した身体環境を整えます2,3。
人の身体は25時間のリズムで刻まれているため、メラトニンの働きによってこのズレをリセットすることが体内時計の維持に不可欠なのです9。
体温の調節
脳や臓器など、体内の温度を表す「深部体温」は、昼間に活動しているときに高く、夜間眠っている間は低くなります3。
メラトニンが分泌されると深部体温が低下するため、スムーズに入眠できます3。
眠そうにしている子どもの手足が温かくなるのは、体内の熱を外に逃がして深部体温を下げ、睡眠に適した状態にするためです3。
免疫機能の調節
メラトニンは免疫機能との関わりが深く、体内の炎症を抑える働きがあります10,11。
免疫細胞でもメラトニンは作られており、免疫機能において重要な役割を担うサイトカインの放出などに関わっているのです10。
このようなメラトニンの働きは、病気の治療に役立つと考えられており、さまざまな分野で研究が進められています11。
抗酸化作用
メラトニンには、「アンチエイジング」で注目されている「抗酸化作用」があり、活性酸素やフリーラジカルを消す働きがあります7。
フリーラジカルとは、不安定で反応性が大きい分子や原子のことで、活性酸素とともに酸化ストレスの原因となる物質です7,12。
酸化ストレスは、体内で酸素を含む反応性の高い物質が増加した状態を指し、正常な細胞を傷つけることで、さまざまな病気の原因になると考えられています13。
メラトニンは、それ自体が天然の抗酸化物質であり、抗酸化に関わる酵素を活性化させる働きもあります7。
不妊治療への活用
卵巣機能や卵子の質の低下には、加齢にともなう酸化ストレスの増加が関与することが指摘されています。活性酸素が体内で増えると、卵子へのダメージが蓄積し、不妊症の原因になる可能性があります14。
メラトニンの抗酸化作用は、卵子を酸化ストレスから保護する働きがあると考えられているのです14。
近年では、メラトニンによって、体外受精・胚移植などの不妊治療の成績を向上させる研究も行われています14。
メラトニンが不足・分泌量が減ったときの影響と原因
メラトニンの分泌は、体内時計の乱れや加齢などによって減少します。
メラトニンが十分に分泌されない状態が続くと、睡眠の質が低下するだけではなく、さまざまな不調を引き起こす可能性があります。
睡眠の質低下
メラトニンの分泌が減少すると、夜になっても身体が睡眠モードに切り替わらず、眠りのリズムが乱れてしまいます2,3。
「寝つきが悪い」「夜中に何度も目が覚める」「朝早く目が覚めてしまう」といった症状を感じる可能性があります5。
気分の落ち込み
睡眠の質が低下した状態が続くと、気分が落ち込んだり、やる気が出なかったりといった、精神面の不調を感じる場合があります15。
良質な睡眠が取れないと、その日の疲れやストレスから、心身を回復させられません15,16。
睡眠で休養が取れている感覚(睡眠休養感)が持てない人は、抑うつの度合いが強くなると言われています17。
気分の落ち込みや抑うつの背景には、メラトニンの分泌低下が関係していることもあるのです。
肌のトラブル
メラトニンには抗酸化作用があり、他の抗酸化酵素の働きを活性化する役割も担っています7。
メラトニンが減少すると、抗酸化作用が十分に働かず、シミやシワの原因となる、肌の酸化を招く可能性があります13,19。
メラトニンが過剰に分泌された場合のリスク・悪影響
体内で作られるメラトニンについては、自然に過剰な分泌が起こることはないようです。
ただし、サプリメントなどにより、体外からメラトニンが補われた場合は注意が必要です1。
日本では、メラトニンは医薬品として取り扱われており、食品としての販売は認められていません20,21。海外では、メラトニンを含む栄養補助食品を販売している国もありますが、その安全性については不明な点が多いようです1。
ドイツリスク評価研究所の発表によれば、健康な成人がメラトニンを摂取すると、眠気や頭痛、注意力の低下といった副作用が頻繁に見られたと報告されています22。
メラトニンを含むサプリメント等を摂取する場合は、かかりつけ医療機関へ相談するなど、注意が必要です。
メラトニン分泌の増やし方・ホルモンバランスを整えるポイント
メラトニンの分泌リズムを整えるためには、睡眠や食事、運動といった、基本的な生活習慣に気を配ることが大切です。規則正しい生活を心がけることで、体内時計が整い、夜間のメラトニン分泌がスムーズになります。
日光を浴びる
日中に1,000ルクス以上の光を浴びると、夜間のメラトニン分泌量が増加すると言われています6。起床後は朝日を室内に取り入れ、日中はなるべく太陽の光にあたるよう心がけましょう6。
メラトニンの分泌が促され、夜にはスムーズな入眠が期待できます6。
タンパク質を摂取する
メラトニンの材料となるトリプトファンは、体内で作り出せないため、食事から摂取する必要があります23。トリプトファンを多く含む食品は、大豆製品や乳製品、ナッツ類などのタンパク質です24。
食事全体の栄養バランスに気を配りながら、タンパク質が不足しないよう意識しましょう。
寝る直前の入浴や運動は控える
就寝前に入浴すると手足の血管が広がり、体内の熱を外に逃しやすくなります6。メラトニンが深部体温を下げるのを妨げないよう、就寝する1〜2時間前には入浴するとよいでしょう6。
就寝のおよそ1〜2時間前に入浴した場合、しなかった場合に比べて、スムーズに入眠できることがわかっています6。
また、身体を動かすことにも似たような働きがあり、就寝する2〜4時間前までの運動は、睡眠の改善に効果的であると言われています25。
身体の興奮状態が就寝時まで続かないよう、日中に運動する習慣をつけるとよいでしょう25。
スマホやゲームは就寝1〜2時間前まで
メラトニン分泌を促すためには、就寝する1〜2時間前までにスマートフォンやパソコン、ゲームの使用を済ませるのが理想的です3,6。
これらのモニター画面からは、ブルーライトを含む光が発生しているため、メラトニンの分泌が抑えられてしまいます6。
照明器具がLEDの場合、寒色系から暖色系に調光してもブルーライトが多く含まれています6。
夜使用するときは明るさを控えめにし、寝るときは照明を消すのが理想的です6。
メラトニンに関するよくある疑問
メラトニンに関する研究は古くから行われてきましたが、その働きや健康との関連については、いまだ解明されていない点も多くあります。
ここからは、メラトニンに関する、よくある疑問についてお答えします。
メラトニンの別名は?
メラトニンは、睡眠や体内時計と深い関係があるため「睡眠ホルモン」や「体内時計ホルモン」とも呼ばれています3,26。
メラトニンとセロトニンの関係は?
メラトニンは、原料となるトリプトファンから、セロトニンを経て作られています2。セロトニンには、脳内の他の神経伝達物質をコントロールして精神を安定させる働きがあり「幸せホルモン」とも呼ばれています24,27。
日中に十分なセロトニンが作られることで、夜間のメラトニン分泌の準備が整うのです2,4。
メラトニンに認知機能の低下を抑える働きはある?
メラトニンの記憶形成や学習や記憶の低下を改善する可能性を探る研究があります。
マウスを使った実験では、メラトニンの変化物質(AMK)が脳内で長期記憶の形成に作用することが報告されています7,18。メラトニンは睡眠との関わりが広く知られていますが、近年ではその他の働きも期待されています。
ブルーライトカットグラスに効果はある?
近年の研究により、ブルーライトカットグラスには、光によるメラトニンの抑制を和らげる効果があるとわかりました28。
500nm以下の短波長光を遮断できるブルーライトカットグラスを装用すると、室内を5ルクス以下の照度にしたときと、同程度のメラトニン分泌量が維持されると報告されています28。
まとめ
メラトニンは、スムーズな眠りを助けるだけではなく、健康を多面的に支える重要なホルモンです。
しかし、LED照明やデジタルデバイスなどの普及により、メラトニンの分泌に悪影響を及ぼしやすくなっています。その結果、寝つきの悪さや睡眠の質の低下だけでなく、体内時計の乱れにつながることもあります。
メラトニン分泌のリズムを守るためには、日中の過ごし方を工夫したり、就寝環境を整えたりすることが必要です。就寝前は照明を控えめにし、デジタルデバイスの使用を減らすなど、日常の小さな工夫が、自然な眠りと健康を支える土台になります。




