ピラティスは、身体の芯(コア)を整え、姿勢や呼吸を深く見つめ直す、そんな「内なる調和」を大切にするエクササイズです。
年齢を重ねても凛とした美しさを保ちたい、そんな願いにそっと寄り添う存在として、世界中で愛されています。
この記事では、ピラティスに関する基本情報からその魅力、そして自宅でも無理なく始められるやさしい実践方法をご紹介します。ご自身のペースで楽しんでみませんか。
ピラティスとは?意味や種類、起源を解説
ピラティスはよく聞くものの、ヨガとの違いがわからない、難しそうなどと感じている方も少なくありません。ここでは、ピラティスの基本的な考え方や種類、歴史について解説します。
20秒でわかるピラティス
ピラティスは、身体のコア(体幹)筋群を使うエクササイズです。
体操、武道、ヨガ、ダンスといったさまざまな運動スタイルや実践的な動きを取り入れるとともに、集中・コントロール・体幹の安定・流れるような動き・正確性・呼吸という6つの基本原則に基づいた哲学的概念をもった、マインド・ボディ・エクササイズの一種です1。
ヨガとは異なり、ピラティスは身体の意識化、呼吸、体幹筋に特に重点を置いています。さらに、ピラティスは慢性疾患のリハビリテーションや補完的治療の一環としても活用される可能性があり、医療・医学分野でも注目されています。
ピラティスの種類
ピラティスには、主に以下の2つのスタイルがあります。
種類 |
特徴 |
向いている方 |
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マットピラティス2 |
・マットの上で自重(ご自身の体重)を使って行う。道具が少なく、自宅でも始めやすい。 ・体幹の強化、脚と腕の左右対称な動き、呼吸のコントロールと身体への意識を取り入れている。 |
運動習慣をつけたい方、費用を抑えたい方 |
マシンピラティス3 |
・専用マシン(リフォーマー※など)を使い、負荷を調整しながら行う。 |
痩せたい、引き締めたい、筋肉を強くしたい、筋肉痛を軽減したい、柔軟性を高めたいという美的目的意識の強い方 |
(文献2、3を参考に作成)
※リフォーマー:スライド式のプラットフォームとバネ、プーリー、ロープからなる装置で構成され、関節への負担が少ない低負荷な運動を目的とした機材。
ほかにもさまざまなスタイルがあり、運動が久しぶりなので不安がある場合でも、ご自身の体調や目的に合った方法を選べば無理なく始められるのがピラティスの魅力です。
ピラティスの起源
「ピラティス」はドイツ人のジョセフ・ピラティスという男性が考案したものです4。
護身術のトレーナーであった彼は、渡英中に第一次世界大戦が勃発し、敵国民として拘束され、収容所で生活することになりました。そのときに彼は、体調改善のために床上でのマットエクササイズを実践することから始め、さらに、ベッドに取り付けたスプリングを用いて、ベッド上で抵抗運動を行い、これらがピラティス・エクササイズの基礎となりました。
戦後、彼はドイツに戻り、舞踊関係者との交流でダンスの領域に目を向けるようになりました。また、呼吸を伴う穏やかな運動法が当時ドイツで普及した背景もあり、ピラティス・エクササイズのメソッドが洗練していきました4。
その後、1920年代に彼は渡米し、ニューヨークでスタジオを経営し、このメソッドがアスリートを中心に支持され4、やがて一般人に広く受け入れられるようになりました。こうして生まれた「ピラティス」は、現在では世界中で親しまれているエクササイズとなっています。
ピラティスが流行った経緯
ピラティスが広まった背景には、医療やスポーツ、美容の各分野での注目に加え、著名人の影響が大きく関わっています。
日本では1990年代初頭に紹介され、当初はフィットネスの一環として徐々に注目され、2000年代に入るとハリウッドセレブやアスリートの影響で一気に人気が高まりました。
医療やリハビリテーション現場での評価
ピラティスによって健康への良い影響があるとして、医療やリハビリテーションの現場でも注目されています。
具体的には、痛みと障害の軽減、柔軟性・筋力・可動性の向上、呼吸数および肺活量の増加、BMIの改善、バランス能力の向上、2型糖尿病女性の空腹時血糖値およびHbA1cの低下、顎関節症(TMD)の重症度の軽減などの健康改善効果をもたらす可能性が報告されています5。
アスリートやダンサーの導入
スポーツ選手のバランス向上やケガ予防、ダンサーの身体コントロールの強化など、身体機能を高める目的で取り入れられています。また、身体の使い方を見直す手段としても活用されています6。
インフルエンサーによる影響
SNSやメディアを通じて、海外セレブや有名人がピラティスに取り組む姿を発信したことで、日本でもピラティスへの関心が高まりました。
ピラティスの効果
ピラティスは、見た目の美しさや姿勢の改善だけでなく、以下のように身体機能や精神面などの分野でも注目されています。
姿勢の改善と体幹の安定
ピラティスでは、姿勢を支えるインナーマッスルを重点的に鍛えられます7。これにより体幹が安定し、猫背や反り腰などの姿勢の改善が期待できます。また、体幹を鍛えることでバランス感覚を高める効果が期待されています。特に高齢者では、転倒予防としても注目されています8。
腰痛の軽減
ピラティスは、関節の負担を抑えながら、筋力や柔軟性の改善を期待できます。
特に、腰痛がある方において、ピラティスは痛みや機能的な障害を軽減しうるという報告があり、腰痛に悩まされている方にとって適しているエクササイズであると言えます。
自律神経の調整
交感神経や副交感神経といった自律神経にも、ピラティスは良い影響を与えます。
1回1時間、週3回のピラティスを12週間続けると、心拍変動の全体的な調節機能を改善したという報告があります9。心拍変動は、自律神経系の機能を分析できる指標で、心拍変動が高いと身体の適応能力が良好であることを示します9。
精神面での安定
ピラティスには、不安や抑うつの軽減のほか、ストレスやストレスに関連する身体症状にも良い影響を与えるという報告があります10。
今すぐ自宅で実践できるピラティス3選
ピラティスは、特別な器具がなくても少しのスペースがあれば始められます。初心者でもチャレンジしやすいように、自宅でできるピラティスを3つご紹介します。
まずはここから!基本姿勢(ニュートラルポジション)
ニュートラルポジション(中立骨盤位)とは、胸郭が固定され、頚椎が最大限に屈曲し、骨盤がニュートラルで安定した位置に保たれている状態です。
この状態は、体幹筋が最大の筋電図(EMG)活動を発揮するのに最も適した条件であると報告されています11。
具体的には、立位の場合は、顎を引いて胸郭は自然な前弯とし、骨盤と肋骨は床と並行で重心は足の中央にある状態です。
ピラティスでは、各エクササイズにおいて頭部、頸部、肩甲帯の効率的な配置を指導されるため、下半身の位置づけが正確に行われ、最大限の筋収縮が得られるように工夫されています。このため、骨盤が中立にあることが基本姿勢となります11。
ペルビックカール
骨盤と背骨を連動させて動かす、ピラティスの基本エクササイズです。
項目 |
内容 |
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目的 |
骨盤と背骨を連動させて、体幹とお尻をしっかり使う |
やり方 |
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ポイント |
・背骨を1つずつ動かす ・腰を反らず、身体は一直線にする |
効果 |
・ヒップアップ ・姿勢改善 ・ 腰痛の予防 ・骨盤の歪みを改善 ・ 自律神経のバランスを整える |
チェストリフト
腹筋をしっかり使って上体を起こす、姿勢改善にも効果的なエクササイズです。
項目 |
内容 |
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目的 |
腹直筋の強化と姿勢の安定性向上 |
やり方 |
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ポイント |
・首に力を入れない(手で頭を引っ張らない) ・お腹の力を使って持ち上げる |
効果 |
・腹筋群(特に腹直筋)の強化 ・姿勢改善 ・腰痛予防 |
自宅ピラティスの注意点
ピラティスは単純な動きに見えますが、姿勢、呼吸、筋肉の使い方が関わるため、正確さが重要です。特に自宅で行う場合は、以下の注意点を意識しましょう。
呼吸を止めないこと
胸式呼吸(ラテラルブリージング)が基本です。動作と呼吸を連動させることで、筋肉を効率的に動かすことができます。
途中で痛みが出たら中止する
ピラティスは、筋肉を正しく使いながら、無理なく動くことが基本です。そのため、エクササイズ中に痛みを感じた場合は、フォームが崩れていたり、身体に合わない動作をしている可能性があります。違和感がある場合は、すぐに中止して身体を休めましょう。
継続して行う
週に1〜2回を目安に体調に合わせて継続しましょう。早く効果を感じたいからと頻度を増やすよりは、筋肉や関節に適度に休息期間を持たせる意識を持つことも必要です。
まとめ
ピラティスは、姿勢の改善、体幹の強化だけでなく、痛みの軽減、自律神経や精神面での安定など、心と身体を整えるエクササイズです。
また、省スペースで費用も抑えられるマットピラティスなどであれば、自宅でも簡単に始めることができます。心の休まる環境のなかで、心身ともに整える時間を作ってみませんか。