生理前になると、理由がはっきりしないままイライラしたり、気分が沈んだり、強い眠気を感じたりすることはありませんか。
こうした不調が続くと、「自分の性格の問題かも」と感じてしまう人もいるでしょう。実はこれらの変化には、排卵後に分泌が増えるプロゲステロンと脳の働きが関係している可能性があります。
本記事では、プロゲステロンの基本的な役割や分泌の仕組み、心身への影響、日常生活での整え方をわかりやすく解説します。
プロゲステロン(黄体ホルモン)とは
プロゲステロンは女性ホルモンの一つで、「黄体ホルモン」とも呼ばれています1。主に排卵後の卵巣(黄体)で分泌され、月経周期の後半や妊娠期に重要な役割を果たします。
一般には妊娠を支えるホルモンというイメージが強い一方で、プロゲステロンは脳や全身にも作用し、気分や睡眠、体温などの体調の変化に関与すると考えられています2,6,17。
プロゲステロンは、分泌量の変動が大きいため、体や脳がその影響を受けやすい点が特徴です。
プロゲステロン分泌のメカニズム
プロゲステロンは、排卵後、卵巣内で形成される黄体で分泌されるホルモンです。この黄体が働く期間を黄体期と呼び、プロゲステロンの分泌量が増加する時期です4,17。
妊娠が成立した場合は、妊娠初期には黄体が、その後は胎盤がプロゲステロンの主な分泌源です。
プロゲステロンの分泌は卵巣だけでなく、脳の視床下部や下垂体による調整を受けています4,18。
そのため、体調や生活習慣の影響でホルモンのリズムが乱れると、分泌のタイミングや変動幅に影響が出ることがあります12。
プロゲステロンの分泌は、次のような要因の影響を受けやすいと考えられています。
- ・強いストレスや慢性的な疲労4
・睡眠不足や生活リズムの乱れ13
・急激な体重変動や過度な食事制限19,20
・加齢や妊娠・出産などによる身体の変化21,22
このように複数の要因が重なり、ホルモンの分泌パターンは少しずつ変化していきます。
プロゲステロンの主な役割
プロゲステロンは、妊娠や月経だけでなく、脳と身体のさまざまな働きを支えています。ここでは代表的な役割を整理していきましょう。
月経周期を支える
排卵後に分泌が増えるプロゲステロンは、子宮内膜を安定させ、月経周期の後半を支える役割を担います1,17。この働きによって、次の月経までの身体のリズムが整えられます。
妊娠しやすい環境を整える・妊娠の維持
プロゲステロンは、受精卵が着床しやすい環境づくりや、妊娠初期の状態を支える役割を果たします。
妊娠が進むと分泌の主体は胎盤へと移り、妊娠期を通して必要不可欠なホルモンです7,17。
脳に作用し気分やストレスに影響
プロゲステロンは体内で代謝され、脳の働きに影響する「神経ステロイド」に変換されることがあります。
その作用により、気分やストレス反応、眠気といった変化として自覚されることがあります6。
こうした影響の現れ方は人によって異なり、同じような分泌量であっても、眠気が強く出る人もいれば、不安感として感じる人もいます。
体温や睡眠など身体のリズムを調整する
黄体期には、プロゲステロンの作用で基礎体温が上昇し、高温期に移行します。
この体温変化に伴い、眠気やだるさを感じやすくなるなど、身体のリズムに変化が生じることがあります。
こうした変化は基本的には病気によるものではなく、ホルモン分泌に伴う生理的な反応です。
ただし、症状の現れ方や日常生活への影響の程度は人それぞれで、ほとんど気にならない人もいれば、仕事や生活に支障が出るほどの不調を感じる人もいます。
他のホルモンと協調してバランスを保つ
プロゲステロンは単独で働くホルモンではなく、エストロゲンなど他のホルモンと相互に影響し合いながら、月経周期を調整しています16。
排卵前はエストロゲンの作用によって子宮内膜が厚く育ちますが、排卵後にプロゲステロンが増えると、内膜は妊娠するための準備をしていきます。そして、エストロゲンの働きを穏やかにし、内膜の状態を安定させる役割を担っているのがプロゲステロンです16。
このように、ホルモン分泌のバランスが変化することで、体調や気分にも影響が現れることがあると考えられています2。
プロゲステロンのホルモンバランスの変化による影響
プロゲステロンが十分に分泌されなかったり過剰に分泌されたり、変動が大きくなると、脳や身体にさまざまな影響が現れることがあります。
ただし、症状の原因は一つではなく、生活習慣や他のホルモンの影響も重なっている点に注意が必要です。
PMS(月経前症候群)として気分や体調の波が強くなることがある
生理前にイライラや落ち込み、眠気などが強くなる場合、プロゲステロンを含むホルモンの変動が関係している可能性があります2,3,5。
PMSで見られやすい変化と背景は以下の通りです。
|
主な症状 |
感じやすい時期 |
起こりやすくなる理由 |
|---|---|---|
|
ぼんやり感・眠気 |
黄体期前半 |
プロゲステロンの作用により、体温上昇や体の休息モードが強まりやすくなる |
|
イライラ・不安感 |
黄体期後半 |
ホルモン変動に対する脳の感受性が高まり、気分の波を感じやすくなる |
|
だるさ・集中力低下 |
黄体期後半 |
体温上昇の持続や睡眠の質低下が重なり、疲労感が出やすくなる |
|
眠気・疲れやすさ |
黄体期全体 |
脳の働きや睡眠の質の変化が影響すると考えられている |
(文献2,3,5,6,9,10,17を参考に作成)
黄体期は排卵後から生理開始までの期間を指します。
この時期の前半では眠気や疲れやすさを感じる人が多く、後半になるとイライラやだるさといった不調が目立ちやすくなる傾向があります。
眠気やだるさが強くなることがある
プロゲステロンは、脳の働きを穏やかにする作用があると考えられており、黄体期には眠気やだるさを自覚する人も少なくありません6,10,12。
また、睡眠不足や生活リズムの乱れが続くと、ホルモン分泌の調整が不安定になり、不調を感じやすくなる可能性があります12。
さらに、睡眠時間が長い人ほど、黄体期のプロゲステロン値が高い傾向がみられたという報告もあり、睡眠状態とホルモン分泌の関係が示唆されています12。
水分貯留・むくみ・体重の変化を感じることがある
月経前から開始にかけては、水分バランスの影響を受けやすくなり、むくみや体重が増えたように感じることがあります8。
- ・夕方に脚や足首がむくみやすい
・指輪や靴がきつく感じる
・体重が一時的に増えたように感じる
こうした体重変化は脂肪の増加ではなく、一時的なむくみによる場合が多く、月経が始まると自然に軽減する傾向があります。
気分が不安定になることがある
気分の落ち込みや不安感、やる気の低下といった精神面の変化を感じる人もいます。
実際に、健康な生殖年齢の女性を対象とした研究では、黄体期に80%以上の女性がネガティブな気分症状を経験したことがあると報告されています。また疲労感は約70%の女性が感じており、攻撃性の変化、抑うつ傾向、不眠などがみられ、黄体期に気分や心身の調子が変化したと感じている人は少なくありません23。
こうした変化は、プロゲステロン単独の作用だけでなく、他のホルモンとのバランスや、ストレス・睡眠リズムといった要素が重なって現れることが多いとされています2,5。
乳房の張り・違和感を感じることがある
黄体期などに乳房の張りや痛み、触れると違和感を自覚することがあります。
PMSの症状としても、乳房の張りや膨満感、体重増加感などがみられることがあります5。多くは月経開始とともに軽減する一時的な変化です24。
食欲が変わることがある
黄体期は、空腹を感じやすくなったり、甘いものや炭水化物を欲しやすくなったりするなど、食欲の変化を自覚することがあります9。
理由の一つとして、黄体期には基礎代謝がわずかに上昇することがわかっており、食欲やエネルギー代謝の調整に関係していると考えられています25。
ただし、食欲の変化には個人差があります。
- ・食欲が増す人
・甘いものや炭水化物を欲しやすくなる人
・逆に食欲が落ちる人
食欲の増減や感じる強さなど、感じ方はさまざまです。
不妊や流産につながる可能性
妊娠を希望している場合、排卵後のプロゲステロン分泌が十分でないと、黄体期が短くなったり、周期が安定しにくくなったりすることがあります7,15。
また、プロゲステロンは子宮内膜を維持し、妊娠初期の環境を支える大切なホルモンです。そのため、分泌が低下していると着床不全や不育症の要因となり、不妊や流産につながる可能性があります7,15。
ただし、不妊や流産はプロゲステロンだけが原因とは限らないため、医療機関を受診しましょう。
プロゲステロンのホルモンバランスを整えるポイント
プロゲステロンは、分泌量が多ければよいというものではなく、「これをすれば増える」といったホルモンではありません。
脳と卵巣が連携して調整する仕組みによって分泌されるため、生活習慣や心身のコンディションがホルモンバランスを整えるうえで大切になります。
睡眠と生活リズムを整えホルモンの土台を支える
十分な睡眠と規則正しい生活リズムは、ホルモン分泌を司る視床下部の働きを支える基本です。
視床下部は、月経周期や排卵、黄体期のホルモン分泌を調整する司令塔のような存在です。睡眠不足や生活リズムの乱れが続くと、この調整が乱れやすくなることがわかっています4,12,16。
夜更かしが続いたり、寝る時間・起きる時間が日によって大きくずれたりすると、月経周期の乱れや体調の不安定さとして表れることもあります12,16。
- ・毎日同じ時間帯に起きる
・就寝前にスマートフォンや強い光刺激を控える
・休日の「寝だめ」でリズムを崩しすぎない
生活リズムを整える意識がホルモンバランスを支える土台になるでしょう。
栄養バランスを意識した食事でホルモン環境を整える
極端な食事制限や栄養不足が続くと、視床下部と卵巣の連携がうまくいかず、結果として月経周期や排卵リズムに影響が出ることがあります19,20。
炭水化物・たんぱく質・脂質をバランスよく摂り、欠食を避けるなど、安定した食生活を心がけることが大切です19,20。
ホルモンの合成には材料とエネルギーが必要なため、無理な制限よりも「続けられるバランスの取れた食事」を心がけましょう19,20。
無理のない運動とストレスケアで分泌の乱れを防ぐ
適度な運動は血流を促進し、自律神経のバランスを整え、心身の安らぎにつながると考えられています。
一方で、過度な運動や慢性的なストレスは、ホルモン分泌の乱れにつながる可能性があります。特にストレスが長時間続いたり、疲労が回復しきらない状態が慢性化したりすると、月経周期や排卵リズムの乱れにつながる可能性があることがわかっています4,19,20。
そのため、心身に過度な負荷をかけない範囲で、次のような工夫をしてみましょう。
- ・軽いウォーキングやストレッチ、ヨガなど気持ち良い程度の運動をする
・休む時間を意識的に持ち、疲労を溜め込まないようにする
・ストレスを抱え込まないような、自分なりの発散方法を見つける
日常の運動やストレス対策は、「継続できること」「回復とセットで考えること」を重視することで、ホルモンバランスが乱れにくい体づくりが可能です4,19,20。
いつもと違う・継続的な不調がある場合は病院へ
生活習慣を整えても不調が続き、日常生活に支障が出ている場合には、医療機関を受診しましょう。
月経周期やホルモン変動を安定させるため、低用量ピルやホルモン療法が用いられることがあります。ホルモンバランスの変化の裏には、病気が隠れていることもあります。
「気分の落ち込みが激しい」「仕事や生活に支障が出ている」など不調が続く場合は、選択肢として専門家への相談を検討してみましょう。
プロゲステロンに関するよくある疑問
ここでは、プロゲステロンに関するよくある疑問について説明していきます。
プロゲステロンの別名は?
プロゲステロンは「黄体ホルモン」と呼ばれることが一般的です。妊娠を支える役割から、「妊娠ホルモン」と表現されることもあります18。
プロゲステロンの分泌を促す食べ物やサプリメントはある?
プロゲステロンは特定の食べ物やサプリメントによって、分泌量をコントロールできるものではありません。
一方で、極端な食事制限や栄養不足はホルモン分泌に影響を与える可能性があるため、まずは栄養バランスや生活習慣を整えることが大切です。サプリメントは、あくまで不足しがちな栄養を補うものと捉えて活用しましょう。
プロゲステロンの男性の身体における働きは?
男性の体内でもプロゲステロンは分泌されています。黄体期以外の通常時の血中のプロゲステロン濃度は、男性と女性であまり差がないともいわれています。
男性においては、男性ホルモンのテストステロンの合成に関わるホルモンとして重要な働きを担っています11。
プロゲステロンの数値はどのくらいが正常?
プロゲステロンの血中濃度は、月経周期のどの時期に測定したかによって大きく変動します。そのため、すべての人に当てはまる「この数値なら正常」「この値なら異常」といった基準があるわけではありません。
医療の現場では、測定した時期や月経周期の状態、検査方法などを踏まえたうえで、一定の目安を参考にしながら総合的に評価されます16,17。施設や検査法によって基準範囲の示し方が異なるため、各施設で確認が必要です。
PMSがつらいとき、まず何を優先するべき?
PMSがつらいと感じるときは、ホルモンの変動を大きくしすぎないよう、生活習慣を整えるのが基本です5。まずは、日常の中で次の点を見直してみましょう。
- ・睡眠不足や夜更かしが続いていないか
・食事を抜いたり、極端な制限をしていないか
・ストレスを溜め込みすぎていないか
プロゲステロンは、生活リズムや心身の状態の影響を受けやすいホルモンです4,16。生活を見直し、それでも毎月の不調が強く、つらいと感じる場合は、医療機関での相談を検討してみましょう。
まとめ
プロゲステロンは、妊娠を支えるだけでなく、脳や身体のリズムに関わるホルモンです。生理前の不調や体調の波は、性格や気持ちの問題ではなく、ホルモンの変動や脳の反応が関係している可能性があります。
ご自分の周期や体調の傾向を知り、必要に応じて生活習慣を整えたり相談したりすることが、心身の負担を軽くする大きな一歩となるでしょう。




